第1部 基調講演 「父親の育児休業、その意義と実現への課題について」
武石恵美子氏
法政大学キャリアデザイン学部教授。専門は人的資源管理、女性労働論。主な著書に『大卒女性の働き方』(共著/日本労働研究機構)、『男性の育児休業』(共著/中公新書)、『雇用システムと女性のキャリア』(勁草書房)など。
なぜ「男性の育休」なのか?
先日、安藤さんに大学に来ていただきまして、父親の子育て参加や育児休暇について、お話しいただき、学生が大変刺激を受けました。若い学生に父親の多様なモデルを理解させることは本当に重要です。
ところで、2005年、施行された次世代法(次世代育成支援対策推進法。次代を担う子どもや子どもを育てる家庭を、社会全体で支援するために、企業や自治体に対して、子どもを産み育てやすい環境づくりを自主的に行うことを求める法律)によって、「男性にも育児休業を」という意識は徐々にではありますが、広まりつつあるように思います。私は3年前に『男性の育児休業』という本を書きましたが、私自身は、男性が育休を取っても取らなくてもそれは本人の選択の問題だと思っています。
少子化対策として、また育児が女性の負担になっているからということもあり、「男性にも育休を」という流れになっているです。それでは、少子化でなければ、男性の育休の問題を考えなくていいのかという問題があります。企業は次世代法の認定を受けるために、男性の育休取得者がいることが必要と考えているようですが、根本的になぜ男性の育休について議論する必要があるのかを考えるべきだと思います。なぜ男性が育休を取るかというと、それは父親が育児をしたいから。そう考えると、必ずしも育休という形でなくても、育児ができるような企業側の体制があればいいと言うことです。
現在、1カ月に20日以上の育休取得者に対して、育児休業基本給付金が支給されますが、この人数から見ると、平成17年、男性は714人、女性は11万7000人でした。年間産まれる子どもの数が約100万人ですから、それを分母として考えると働く女性の育休取得率は1割強、男性は0.1%にも満たない状況です。厚生労働省から出ている数字は女性の場合は7割程度ですが、実際には妊娠・出産の時点で会社を辞めてしまう人が7割程度いますから、出産者に対する休業取得者は女性でも少ないのが現状です。
社会の状況と育休制度のアンバランスさ
女性で、主産後も働き続けている人というのは、実は80年代後半から、ほとんど変わっていません。92年に育休法が施行され、この結果、女性の就業継続者が増えると思われていたわけですが、増えていない。また、少子化も改善されていないのです。なぜ効果が上がらないのかというと、両立支援策というのは、働く女性のための施策として認識されてしまったことに原因があると考えています。男性の育休取得については、職場の中でまだまだ否定的な雰囲気が残っています。また、育児休業や短時間勤務といった子育て支援策に施策が集中してしまい、子育てしやすい働き方や職場環境をどう整備するか、といった視点が明確ではなかったという問題もあると思います。
モデルケースが少ないことによる根強いマイナスイメージ
なぜ男性の子育て参加が続かないのかというと、やはり背景には「育児は女性の役割」という社会一般、あるいは職場の意識があるからでしょう。男性対女性の比率で見ると、育休の取得は98%が女性。これに対して、介護休暇の場合は、3割くらいは男性が取得しています。つまり、男性が家庭の都合で休むということが問題なのではなく、「子育て」のために休むという意ことに対して寛容になれないということが日本の社会に根強くあるように思います。
優秀な社員に休まれるのはやはり会社にとって、ダメージです。休んでいる間に、同じ能力の他の人が働ければいいのですが、代替は難しいものです。また、男性が育休を取ると出世に響くという印象もあります。
けれども私が実施した調査によれば、1~2カ月程度の短期の育休なら、昇進や昇給に影響がない、6カ月取った場合でも、その後きちんと仕事をしていれば、長期的に昇進や昇給への影響はないという企業が多数です。しかし、育休を取ることで昇進や昇給に影響があると思っている従業員が多い。企業の人事の仕組みを従業員が理解していないために、不安になってしまうということです。
また、モデルケースがいないという問題もあります。自分が男性育休第1号取得者になりたくないという人もいるでしょう。男性が育休を取れるという情報もまだまだ不足しています。このような状況があるので、男性の子育て参加が、進んでいかないのだと思います。
















